フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略 [book]

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略 / クリス・アンダーソン (著), 小林弘人 (監修), 高橋則明 (翻訳)

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略


古いものではオープンソース、最近では無料で利用できるウェブサービス、書籍 PDF や大学講義の動画の無料公開などの「フリー」ビジネスモデルについて、書かれています。
商品を「フリー」にすることと、儲けるとは相反しているようですが、そのビジネスモデルのからくりについて詳しく説明されています。

「フリー」ビジネスを分類し、どうすればうまくいくのか、いかないのか、といった視点でも解説されていて分かりやすいです。

これから、インターネットの重要性がますます高まるにつれ、「フリー」ビジネスも増えていくことは間違いないので、読んで損はないと思います。


以下、読書メモ。

p.22

デジタル時代のユニークな特徴は、ひとたび何かがソフトウェアになると、それがかならず無料になることだ。つまり、コストが無料になるのは当然として、ときとして価格まで無料になるのだ(たとえば鉄の価格がほぼゼロにまで落ちたとしたら、キング・ジレットはカミソリの柄も替え刃も無料で配ることができた。そして彼は、たとえばシェービング・クリームなど、まったく別のモノで金儲けをしただろう)。この経済は、歴史上はじめて、最初の価格がゼロなのにもかかわらず数十億ドルの規模を持つものになりつつあるのだ。


p.30

これらのフリーは、四種類に大別することができる。そのうちのふたつは古くからあるが、進化したもので、残りのふたつはデジタル経済とともに登場したものだ。それらを見ていく前に、四つのフリーを一歩下がって見てみれば、それが同じひとつの事象のさまざまなバリエーションにすぎないことがわかるーーつまり、商品から商品への、人から人へのお金の移動、現在と将来のあいだでのお金の移動、あるいは非貨幣経済の市場に入ってまた出ていくことだ。経済学者はそれらを「内部相互補助(他の収益でカバーすること)」と呼ぶ。


p.39

典型的なオンラインサイトには五パーセント・ルールがある。つまり、五パーセントの有料ユーザーが残りの無料ユーザーを支えているのだ。フリーミアムのモデルでは、有料版を利用するユーザーひとりに対して、無料の基本版のユーザーが一九人もいる。それでもやっていける理由は、一九人の無料ユーザーにサービスを提供するコストが、無視できるほどゼロに近いからだ。


p.85

消費者からすると、安いことと無料のあいだには大きな差がある。ものをタダであげれば、バイラルマーケティング[いわゆる口コミを利用するマーケティング戦略]になりうる。一セントでも請求すれば、それはまったく別で、苦労して顧客をかき集めるビジネスのひとつになってしまう。つまり、無料はひとつの市場を形成し、いくらであろうと有料になると別の市場になるのだ。多くの場合で、それがすばらしい市場とダメな市場の違いになる。


p.104

製造コストが長期にわたり下がりつづけるならば、ほかでは正気の沙汰とは思えないような価格スキームを試すこともできる。今日のコストをもとに価格を決めるのではなく、明日に要するであろうコストから価格を決めるのだ。低い価格設定は需要を刺激し、需要増がコストをさらに下げて、明日が来たときには予想よりもさらにコストが下がっていることになる。それで利益をあげられるのだ。


p.119

ミードが理解していたのはものの価格がゼロに向かうと心理的スイッチがパチッと入ることだった。完全に無料にはならないかもしれないが、価格がゼロに近づくと、まるでそれがタダであるかのように扱われるという強みを持つ。


pp.133-134

「私がWELLで手本のひとつとしたのは、電話会社です」とブランドは言う。「そこは会話を売るのではありません。誰が何を話そうと気にしません。ただ電話を持っていて、それを利用することに対して料金を課すだけです。コンテンツは関係ないのです」
物質界ではパブが似ているとブランドは言う。そこはコミュニティとおしゃべりのための場所を提供するが、それについて料金をとらない。潤滑油となるビールの代金をとるだけだ。
「ビールのジョッキなり電話の発信音なり、料金を請求できる何かはほかのものを見つけるのです。隣接広告のようなものです。常に情報以外のもので料金をとれるようにする必要があります」


p.171

TEDカンファレンスは、招待者のみが参加できる、テクノロジーとエンターテインメント、デザインに関する講演会で、そのチケットは6000ドルもする。毎年、企業経営者やハリウッドのエリート、元大統領などがカリフォルニアのリゾート施設の集まり(会場は25年間、モンテレーだったが、今はロングビーチに移った)、1人18分間の講演を聴く。後援者は進化論者のリチャード・ドーキンスや、シミュレーションゲームのザ・シムズの制作者であるウィル・ライト、元副大統領のアル・ゴアなどだ(私も話をすることがある)。2006年にそれまでの閉鎖的なやり方を捨て、TEDは講演の様子をウェブサイトで無料公開した。これまでにその映像は5000万回以上も視聴されている。どうしてTEDはそんな高価なものをタダで公開できるのだろうか?

オンライン動画を見るのと、会場にいることは違う:講演を聴くことは経験の一部にすぎない。出席者と歓談することも同じように重要だ。出席者には講演者と同じくらい優秀な人物も多い。講演も聴けるし、廊下で立ち話もできるのだ。また、最初にそれを見るという魅力もある。そのためTEDのチケットは、講演会をあとからオンラインで見られるようになっても、その価値を減じていない。というよりも、自分たちが直接に見られなかったものは何かを人々が知ることで、チケットの価値はさらに上がったのだ。


p.308

もしも自分のスキルがソフトウェアにとって代わられたことでコモディティ化したならば(旅行代理店、株式仲買人、不動産やがその例だ)、まだコモディティ化されていない上流にのぼって行って、人間が直接かかわる必要のある、より複雑な問題解決に挑めばいい。そうすればフリーと競争できるようになるだけではない。そうした個別の解決策を必要とする人は、より高い料金を喜んで支払うはずだ。


p.309

たしかに彼の実験は失敗に終わったが、それはフリーが失敗したというより、やり方が悪かったのだと言える。無料のもののとなりにチップジャーを置くのは、「テックダート」のマイク・マスニックが、「神頼みの無料提供」と呼ぶものだ。フリーを利用するビジネスモデルの失敗例というより、そもそもビジネスモデルすらない。
では、どうすればよかったのだろうか。まず、出版後数年経ってからではなく、刊行と近い時期に無料で提供することだ。


pp.310-311

フリーは魔法の弾丸ではない。無料で差し出すだけでは金持ちにはなれない。フリーによって得た評判や注目を、どのように金銭に変えるかを創造的に考えなければならない。