アイデアを形にして伝える技術 [book]

アイデアを形にして伝える技術 / 原尻 淳一 (著)

アイデアを形にして伝える技術


この本を読んで得られるものは、大きく分けて 2つ。

1つは、有用な書籍、サービス、コンテンツへのポインタです。

書籍としては、『知的生産の技術』、渡部昇一さんの『知的生活の方法』、立花隆さんの『知のソフトウェア』、松岡正剛さんの『知の編集術』などが紹介されています。

また、ブックナビゲーションサービスとして、国立情報学研究所の高野明彦さんを中心に開発された Webcat Plus や、『想 IMAGINE Book Search』論文情報ナビゲータ CiNii や、学術研究データベース Nii-DBR、世界の先行研究のデータベースとして 「arXiv.org」「Nature Precedings」 が紹介されています。

また、優れたプレゼンテーションへのポインタとして、TED や USTREAM で公開されている動画も紹介されています。


もう 1つは、タイトルにもあるように「アイデアを形にして伝える技術」です。
つまり、アイデアを出す方法、文章で伝える方法、プレゼンで伝える方法などが説明されています。
それぞれ、具体例を挟みながら説明されており、分かりやすいです。


以下、読書メモ。

p.5

本論に入る前に、アイデアが溢れてくる「仕組み化」の基礎となる2つの概念についてお話ししておかなければなりません。(1) 「データベース思考」と、(2) 「民際学的思考」です。


p.6

データベース思考は生み出されたアイデアを形にする仕組みであり、民際学的思考はアイデアを量産し、膨らませる行動規範です。


p.29

フィールドワークは、「発見」と「検証」という2つの段階に分かれます。
例えば、新商品開発のように何もないところから新しい価値を生むようなプロジェクトでは、まず「テーマの発見」が求められます。


pp.29-30

テーマを発見したければ、まず面白そうな現場に赴き、自分の価値観と違ったものや共感するものなど、自らの感覚を研ぎすまして観察することが大切です。
ここでのコツは、あまり事前に調べすぎないことです。純粋に未知の現場に飛び込んで「察知のアンテナ」を張り、気になる情報に集中してみることが大切です。
なぜかというと、たくさん本を読んでからフィールドワークに出ると、どうしても「本の内容を確かめたい、検証しよう」とする意識が生まれてしまうからです。

p.94

周囲にいるアイデアマンを分析すると、勤務後にいろいろ異業種交流を行っている、休日に趣味や遊びを通じて自然といろいろな人たちとおつきあいしている、といった「社交的な特徴」が浮かび上がってきます。
この交流では何が行われているのかというと、誰かと話しながら相手の知識や経験を借りて新しいアイデアを得ているのです。これは「対話法」と呼ばれるアイデア発想の方法のひとつ。失敗学で著名な畑村洋太郎さんは『創造学のすすめ』(講談社)のなかで、「さまざまな経験を積んでいる優れたベテランに話をしたほうが、それだけよい創造の種を得られやすい」と指摘しています。


p.90

たとえば、ここに一台のトラックがあったとしましょう。このトラックを分析してみると、最もベースの部分ではパーツとそれをつなげるビスなどに分類できます。これを組み合わせることで、エンジンやタイヤ、あるいはハンドルやアクセル、ブレーキなどの「構造」ができあがります。さらには、この構造同士を組み合わせることで、トラックという「全体構造」ができあがるというわけです。そしてトラックは「多くの荷物を素早く目的地に届ける」という「機能」を持っています。(『創造学のすすめ』)
面白いのは、プロダクトの「要素、構造、機能」は三位一体であり、3つのうちどれかを変更するとプロダクトの全容が変わる点です。
例えば、機能を変更すれば、必然的に要素も構造も変わってきます。もし機能が「たくさんの人間を快適に移動させる」と変更されれば、トラックのような荷台はなくなり、座席数を増やさなければなりません。すると、要素も構造もガラリと変わり、バスの発想へ全体構造が変化してきます。プロダクトそのものを大きく変えるということは、ゼロから発明するようなことではない、右にあげた3つのどれかを変換することによって全体像がまったく変わってしまうという、化学変化のようなアイデア発想になるのです。


p.100

このような「要素の不足」が起きた時、代替案が出てきやすくなります。この不足を意図的に引き起こして、新しい機能や構造を考えてみる、そんな揺さぶりが「意図的欠落」です。


p.103

無理に未来をのぞこうとせず、自分たちの過去を見つめ直す。そこから「要素、構造、機能」へ過去からの教訓をつなげることで、新しい活路がひらけてきます。


p.137

ペン・シャープナー (Pen-sharpener) はペン先を尖らせるものという意味だそうで、「文章のカンを鈍らせないために読む本や、原稿を書く前に読むお気に入りの文章」のことを指します。執筆前にお気に入りの文章を読むと徐々に書こうという気持ちが高まっていき、その瞬間を見逃さずに書き始めるのがコツだそう。


p.141

文章表現のルールや技法について、次のように順序立てて説明していきます。
 (1) ベンチマーク研究: 手本となる文章をいくつか見つけて分析する
 (2) 文章表現のルールをつくる: 分析結果をルールとして規定する
 (3) 文章を磨く: 文章を他人に読んでもらうことによって、修正点をみつけ、リライトする


pp.150-151

<文章表現の設定の質問>
 (1) 読者は誰ですか?
 (2) 書く文章のジャンルは何ですか?
 (3) 書く内容、テーマは何ですか?
 (4) 文章にどんなリズムを流しますか?
 (5) 文章を規定するルールを簡単に記しましょう(前の4項目の分析結果が入ります。3~5つを目安に)


p.164

ワーマンは道順を教えること、つまり「地理的なインストラクションの原理はあらゆるインストラクションに通用する」として、次の6つの項目をあげています。

 (1) 使命: Mission (受け手がどのように実行したらよいのか示唆すべきもの)
 (2) 最終目的: Destination (インストラクションの最終結果。しっかり把握できる目的)
 (3) 手順: Procedure (実際の指示内容)
 (4) 時間: Time (実行に必要な予定時間)
 (5) 予測: Anticipation (安心要素。予測によって誤解を訂正する)
 (6) 失敗: Failure (フラストレーションを軽減するのに必須要素)


pp.166-167

ワーマンの項目で特筆すべきは、加えて (6) として「失敗」を語っている点でしょう。みなさん、「情報マイナスイオンの法則」を知っていますか。マイナス情報を話すと、ものすごく読者を惹きつける特性のことです。確実に手順を踏み、最終目的まで導く際に失敗を予測し、修正の手引きまで入れることは、読み手あるいはクライアントに対してホスピタリティあふれる要素であるとともに、強烈な印象を残します。ここは企画書でも考慮すべきポイントです。


pp.168-169

<企画書の基本項目>
 (1) 目的/目標 (目的 = 質的、目標 = 量的、数値的)
 (2) 現状の問題と課題 (現状の分析結果からの戦略と戦術の方向性示唆)
 (3) コンセプト (戦略1: 基本的な考え方の提示)
 (4) 顧客 (戦略2: 想定する顧客の提示)
 (5) コンテンツ (戦術: 考え方に基づく施策内容)
 (6) 作業工程 (手順: 誰が何をするのかの順序)
 (7) スケジュール (時間: いつまでに何をするのかの目安)
 (8) 予算/収支予測/市場へのインパクト (予測: この企画で何が変わるのか、何が生まれるのかの想定)
 (9) コンテンジェンシー・プラン/シナリオ、プランニング (失敗の予測と対処)

※(9) は予備で持っておくと便利であり、基本項目には入れない


pp.180-181

最近のわたしの企画書の定番は、導入部分と締めの部分は、「です・ます調」でしっかりと相手の気持ちを汲みながら丁寧に入り、途中はすべて「体言止め」、そして最後に「です・ます調」にもどり、丁寧にクロージングするスタイルをとっています。


p.188

プレゼンテーションでは事前準備として、(1) 目的、(2) ターゲット、(3) 制限時間を考慮しなければなりません。


p.191

それは「トップラインで紙芝居をつくる」こと。トップラインとは、スライドの内容がまとまっている一文のことです。この一文を読み連ねて、筋が通るようにあらかじめストーリーを構想し、簡単な紙芝居をつくってから、データやチャートを入れ込むのです。すると、データに振り回されることがなくなります。