影響力の武器 第二版 なぜ、人は動かされるのか [book]
影響力の武器 第二版 なぜ、人は動かされるのか / ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)
昔から有名なセールス・交渉テクニックについて、多数の実験や実例を交え解説されています。
それぞれの心理学の原理、返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性については、一度は聞いたことがあるものなのですが、実例が豊富なため納得できる内容になっています。
また、ここで解説されているテクニックを使って忍び寄ってくる罠について、どのように対処すればよいのか、といった視点でも述べられている点がおもしろいです。
心理的なスイッチが入って、行動が自動的に制御されることを、テープレコーダーに例え「カチッ、サー」と比喩しています。
この「カチッ、サー」が頻繁に出てくるのですが、個人的にはあまりなじみがない擬音で、しっくり来こず、唯一残念な点でした。
以下、読書メモ。
pp.vii-viii
承諾誘導の実践家が相手からイエスを引き出すために使う戦術は何千とありますが、その多くが六つの基本的なカテゴリーに分類できるということです。それぞれのカテゴリーは、人間行動を導く基本的な心理学の原理に支配されており、このことが、用いられる戦術にパワーを吹き込んでいるのです。これらの原理ーーー返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性ーーーは、社会でどのように機能するのだろうか、説得のプロたちが、どのようにそれらの原理が持つ巨大な力を巧みに組み合わせて購買、寄付、譲歩、投票、同意を獲得する要請に仕立て上げていくのだろうか。
p.42
被験者がジョーからコーラをもらった条件においては、好意度と承諾率との間の相関関係がまったくなくなっていたということです。ジョーに借りがある被験者は、相手を好きだろうが嫌いだろうが関係ありませんでした。借りを返さなければという義務感を感じ、実際、その通りに借りを返したのです。
p.56
被験者はコーラを貰うことでジョーに恩義を感じることになりました。このことは、ジョーがチケットを何枚か買ってほしいと頼んだときに明らかになったわけです。この場合、両者がまったく釣り合いのとれていない関係にある、という店に注目してください。つまり、ジョーだけが完全に自由な選択を行ったのです。最初にどのような親切を行うかを選んだのは彼ですし、お返しに何を買うかを決めたのも彼です。
p.71
イスラエルのバーリアン大学で行われた研究では、最初の要求が法外に大きな要求を最初から出してくる相手は、誠実に交渉を行っていると見なされないからです。最初の要求が現実離れしたものであれば、そこからいくら要求を引き下げても本当の譲歩だとは受け取ってもらえません。したがって、お返しの譲歩も行われません。
p.87
もう一つの解決法の方が期待がもてます。他者の申し出は受け入れるのですが、その申し出がどのような体裁をとっているかではなく、根本的に何であるかを判断して受け入れるのです。
p.87
しかし、最初の好意が、私たちを刺激してもっと大きなお返しを得ようとするために特別に仕組まれた策略であることが明らかになれば、話はまったく違ってきます。その相手はもはや恩人ではなく搾取者なのですから、相手の行為に対してはそれに見合ったやり方で対応すればよいのです。
p.89
もしあなたがこのような場にいて、高い警報装置を売りつけることが検査者が訪問してきた主な理由であることに気がついたとしたら、あなたが次にとるべき行動は単純かつプライベートなものです。心のなかで状況を定義しなおすのです。つまり、検査者から受け取ったものーーー消化器、防火に関する情報、危険箇所の検査ーーーを、贈り物ではなく販売の手練手管だと考え直すのです。そうすれば、返報性のルールの影響をまったく受けないことになりますから、買いませんかという誘いを体よく断るも (あるいは、受け入れるも) あなたの自由になります。
p.99
自分がすでにしたことと一貫していたい (そして、一貫していると見てもらいたい) という欲求によるものなのです。ひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動を取るように、個人的にも対人的にも圧力がかかります。そのような圧力によって、私たちは前の決定を正当化するように行動します。
pp.114-115
強力な一貫性のテープをサーと回転させるカチッは、何によって生み出されるのでしょうか。社会心理学者は答えを知っていると考えています。それは、コミットメントです。もし私があなたをコミットメントさせる (すなわち、立場を明確になせる、公言させる) ことができたとしたら、よく考えもせずに自動的にそのコミットメントと一貫性を保つためのお膳立てができたといってよいでしょう。立場を明確にすると、その立場と強固に一貫して行動しようとする傾向が自然と生じるのです。
p.152
社会科学者は、人は外部から強い圧力を受けずにある行為をすることを選択すると、その行為の責任は自分にあることを認めるようになると明言しています。価値ある報酬というのも外部からの圧力の一つです。それは、人に何かをさせることはできても、その行為に対する責任を感じさせることはできません。その結果、ある行為にコミットしたという気にならないのです。同じことが強い脅しについても言えます。強く脅せば、そのときは承諾させられるかもしれませんが、長期間に及ぶコミットメントを生み出すことはないのです。
ここで述べたことはすべて、子育てに重要な意味をもっています。子どもが本心からやってほしい、そう願っていることを子どもたちにさせるときには、決して魅力的なごほうびで釣ったり、強く脅してはいけないということを教えているのです。そのような圧力によって、親が望んでいることを一時的に子どもにやらせることはできるでしょう。しかし、それにとどまらず、自分のやったことは正しいと子どもに信じてもらいたいのなら、また、自分がいなくて、外部からの圧力が加えられないところでもその望ましい行動をとり続けてもらいたいのなら、なんとかして、子どもにして欲しいと思う行動に対して、子ども自身に責任を感じてもらうようにしなくてはなりません。
p.181
最初のコミットメントが間違っているかどうか明確でないときに、最も効果的に用いることができる。その場合、「今知っていることはそのままにして時間を遡ることができたら、同じコミットメントをするだろうか」という厄介な質問を自分自身に問いかけなくてはならない。そのとき、役に立つ答えをもたらしてくれるのは、最初に沸き上がってきた感情である。
p.189
なぜ、録音笑いがこれほど効果的なのかを明らかにするためには、私たちはまず、もう一つの強力な影響力の武器の性質を理解する必要があります。社会的証明の原理です。これは、私たちは他人が何を正しいと考えているかにもとづいて物事が正しいかどうかを判断する、というものです。この原理が特に適用されるのは、正しい行動が何であるかを私たちが決めるときです。特定の状況のもとで、ある行動を遂行する人が多いほど、それが正しい行動だと見なすのです。
p.225
他のすべての影響力の武器と同じように、社会的証明の原理が特に強く作用する条件がいくつかあります。その一つが不確かさです。どう振る舞えばよいのか確信がもてないとき、人は他者の行動を参考にして自分の行動を決める傾向があります。このことに疑問の余地はありません。もう一つの重要な条件は類似性です。社会的証明の原理は、自分と似ている人の行動を見ているときにもっとも強く作用します。どう振る舞うのが適切なのかを考えるとき、一番参考になるのは自分と類似した他者の行動です。したがって、私たちは、自分と異なる人よりも類似した人が示す行動に従いやすいものなのです。
p.247
もちろん彼はまれにみる精力的な人物でしたが、彼の発した力が、その並外れた個人的スタイルよりも、基本的な心理学の原理を彼が知っていたことに由来するというのが驚きです。天性のリーダーとしての彼の資質は、彼が一個人のリーダーシップの限界を知っていたことにあります。いかなるリーダーでも、集団のすべてのメンバーを一人の力で完全に説得できるものではありません。しかし、強力なリーダーなら、集団のかなりの割合の人を説得できると考えてよいでしょう。そして、集団のかなりの数のメンバーが納得したという生の情報が、それ自体、他のメンバーを納得させるのです。したがって、もっとも影響力のあるリーダーというのは、社会的証明の原理が自分に有利に働くようにするためには集団の状況をどう整えればよいのかを知っている人なのです。
p.249
幸運にも、このジレンマから逃れる方法が一つあります。つまり、自動操縦が支障をきたすのは、主として不正確なデータがコントロール・システムに入力される場合なので、こうした事態に対処する最良の防衛法は、どういうときにデータが誤るのかを知ることなのです。社会的証明という自動操縦が不正確な情報をもとに作動している状況に対して敏感になれば、私たちは必要なときにそうしたメカニズムを停止させて、自分でコントロールをすることができるはずです。
p.249
誤ったデータが原因で、社会的証明の原理が役に立たなくなってしまう状況が二つあります。一つは社会的証明が意図的に歪められて提供される場合です。こうした状況は常に、私たちに遂行して欲しいと搾取者が思っている行動を大衆が遂行しているという印象ーーー歪められた現実ーーーを演出しようとする搾取者の意図によって作り出されるのです。
p.252
自動操縦は随時にスイッチを入れたり切ったりできるので、私たちは不正確なデータが使われていることに気がつくまで、社会的証明の原理によって操縦されているコースを信頼して巡ることができます。誤りがあったときには自分でコントロールし、誤った情報に必要な修正を施し、自動操縦を再びセットすればいいのです。
p.421
この研究では、奇妙には思えるけれども、希少性に関する真実を物語るような事柄が明らかにされました。つまり、数が少ない方のクッキーは確かに望ましいと評定されたのですが、たくさんあるクッキーよりおいしいとは評定されなかったのです。希少性はそれを求める気持ちを高めることはできても (実験参加者は、これからもその希少なクッキーが欲しいと思う、そしてより多くのお金を支払うだろうと考えていました)、クッキーの味を良く感じさせるまでには至らなかったのです。ここに、よく考えなくてはならない重要な点があります。つまり、喜びは希少な品を体験してみることにあるのではなく、それを所有することにあるのです。この二つを混合しないことが大切なのです。
p.421
しかし、所有する目的だけのために、あるものが欲しくなることはめったにありません。やはり、その有用性のために欲するのです。食べたり、飲んだり、触ったり、聞いたり、動かしたり、というように、それを利用するために欲するのです。このような場合でも、希少性が高いものが、なかなか手に入りにくいという理由だけでおいしくなったり、感じが良くなったり、音が良くなったり、乗り心地が良くなったり、よく動くようになったりすることはないのだ、ということを決して忘れてはいけません。