ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代 [book]
ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代 / ダニエル・ピンク (著), 大前 研一 (翻訳)
農耕社会、産業社会、情報化社会の次に来る波を予測し、解説しています。
その波とは、「コンセプチュアル社会」だそうです。
その社会を生きるには、「ハイ・コンセプト」「ハイ・タッチ」といった新しい思考やアプローチが必要とのこと。
さらには、「ハイ・コンセプト」「ハイ・タッチ」といった資質を身につけるにはどうすればよいかといったことについても書かれています。
キーワードとしては、調和、共感、デザイン、右脳など。
以下、読書メモ。
pp.14-15
つまり、「第一の波(農耕社会)」は、アルゼンチンやオーストラリアが圧倒的に強い。日本のように農作物輸入を規制しているところは、農民も何とか食べているが、それは納税者の犠牲の上において成り立っているわけであり、早晩持ちこたえられなくなる。
「第二の波(産業社会)」は、世界の生産基地となった中国が持っていってしまった。ロボットもその一部で、いまでは、「介護ロボット」までつくるというところまできている。
して、「第三の波(情報化社会)」は、インドが世界のメイン舞台だ。これに中欧、アイルランド、オランダ、フィリピン、モーリシャス、マレーシアといった意外な国々が続いている。
こうなると、「われわれは、これからどうやって飯を食っていったらいいんだ」ということになる。つまり、「第三の波」は、いまや個人の安穏な生活を保障してはくれない。知的労働者といわれる人たちでさえも、インドやコンピュータの脅威にさらされているのである。
では、どうしたらいいのか。
そこで、「第四の波」のことである。
「第四の波」というのは、ピンクによれば、要するに、「情報化社会」から「コンセプチュアル社会」、つまり、既成概念にとらわれずに新しい視点から物事をとらえ、新しい意味づけを与えていくという流れだ。
p.18
ベートーヴェンの音楽は「理屈」であり「左脳型」なのだ。
p.19
一方、モーツァルトは純粋無垢だ。
〜略〜
この音楽を聴いている人も右脳が純粋に刺激されていく。
〜略〜
だから、ボケッと聞くなら、モーツァルトを流しているのがいちばん良いということだ。
p.20
本当にすごい人というのは、右脳からアイデアを出させて、左脳で評価することができる。「必要条件」が右脳から出てきたら、それが「十分条件」かどうかを左脳で判断する。
p.27
本書では六つの重要な資質について考える。
私はこれを「六つのセンス(感性)」と呼んでいるが、仕事上の成功を収められるか、生活に満足を得られるかは、この「六つのセンス」に大きく左右されるようになる。
「六つのセンス」とは、デザイン、物語、調和、共感、遊び、生きがいだ。
p.28
その新しい時代を動かしていく力は、これまでとは違った新しい思考やアプローチであり、そこで重要になるのが「ハイ・コンセプト」「ハイ・タッチ」である。
「ハイ・コンセプト」とは、パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力、などだ。
「ハイ・タッチ」とは、他人と共感する能力、人間関係の機微を感じ取る能力、自らに喜びを見出し、また、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、そしてごく日常的な出来事についてもその目的や意義を追求する能力などである。
pp.102-103
1. 他の国なら、これをもっと安くやれるだろうか
2. コンピュータなら、これをもっとうまく、早くやれるだろうか
3. 自分が提供しているものは、この豊かな時代の中でも需要があるだろうか1と2の答えがイエス、あるいは、3の答えがノーだとしたら、あなたが抱える問題は深刻だ。
p.103
大いに発展したハイテク力を、「ハイ・コンセプト」と「ハイ・タッチ」で補完する必要がある。
p.120
豊かさ、アジア、オートメーションに翻弄されている世の中では、「左脳主導思考」は必要ではあるが、もはやそれだけでは不十分であり、私たちは、「右脳主導思考」に磨きをかけて、「ハイ・コンセプト、ハイ・タッチ」の資質を身につけなければならない。
対価の安い海外のナレッジ・ワーカーにはこなせず、処理能力の速いコンピュータにもできない仕事、また、豊かな時代における美的感覚と感情的・精神的要求を満たせるような仕事を行わねばならないのだ。
pp.122-124
1 「機能」だけでなく「デザイン」
商品やサービス、あるいは、体験やライフスタイルにおいても、もはや単に機能的なだけでは不十分だ。外観が美しく、感情に訴えかけてくるものを創ることは、今日、経済面において不可欠なことであり、個人のためにもなることである。2 「議論」よりは「物語」
情報とデータがあふれた今日の生活では、効果的な議論を戦わせるだけでは十分ではない。必ず、誰かがどこかであなたの議論の盲点を突き、反論してくるからだ。説得やコミュニケーション、自己理解に肝心なのは、「相手を納得させる話ができる能力」なのである。3 「個別」よりも「全体の調和」
「産業の時代」と「情報化時代」の大半を通じて、何かに焦点を絞ったり、特化したりすることが重視されてきた。だが、ホワイトカラーの仕事がアジアへ流出し、ソフトウェアに取って代わられるようになるにつれ、その対極にある資質に新たな価値が見出されるようになった。それはバラバラなものをひとまとめにする能力で、私が「調和(シンフォニー)」と呼んでいるものだ。今日、最も重視されるのは、分析力ではなく総括力、つまり全体像を描き、バラバラなものをつなぎ合わせて印象的で新しい全体像を築き上げる能力である。4 「論理」ではなく「共感」
論理的思考力は、人間に備わった特徴の一つである。だが、情報があふれ、高度な分析ツールのある世の中では、論理だけでは立ち行かない。成功する人というのは、何が人々を動かしているかを理解し、人間関係を築き、他人を思いやる能力のある人である。5 「まじめ」だけでなく「遊び心」
笑い、快活さ、娯楽、ユーモアが、健康面でも仕事面でも大きな恩恵をもたらすということは、数多くの例により証明されている。もちろん、まじめにならなければならない時もある。だが、あまり深刻になりすぎるのは、仕事にとっても、満足の行く人生を送るためにも、悪い影響を及ぼすことがある。「コンセプトの時代」では、仕事にも人生にも遊びが必要なのだ。6 「モノ」よりも「生きがい」
私たちは、驚くほど物質的に豊かな世界に住んでいる。それによって、何億もの人が日々の生活に苦しむことから解放され、より有意義な生きがい、すなわち目的、超越、精神の充足を追い求められるようになった。
p.129
デザインは、古典的な全体思考能力だ。ヘスケットの言葉を借りれば、「実用性」と「有意性」の組み合わせである。
コマーシャルデザイナーは、読みやすいパンフレットを手早く作り上げる必要がある。これが「実用性」である。
だが、パンフレットとして最大の効果を上げるには、言葉では表現しきれないアイデアや情感を読む人に伝えなくてはならない。これが「有意性」である。
pp.158-159
カリム・ラシッドにアドバイスを求めたところ、「カリマニフェスト」とも言える彼のモットーを教えてくれた。生活とデザインに関する指針が五〇のポイントにまとめられているものだが、そのうちのいくつかを紹介しておこう。
1 専門的になるな。
5 ものを作り出す前に、そのアイデアやコンセプトがオリジナルのものなのか、それには本当に価値があるのかどうかを自問してみること。
6 自分が経験してきた仕事についてすべて理解し、その上で何か新しいものをデザインする時には、前のものは全部忘れてしまうこと。
7 「やれたはずなんだけど」とは決していわない。それは、やらなかったことだからだ。
24 モノではなく、「経験すること」にお金を使え。
33 「普通」というのはいいことではない。
38 世の中には三種類の人間がいる。文化の創造者、文化の消費者、文化など意に介さない人。最初の二種類の人間のどちらかになるようにする。
40 一つのことにこだわらず、広く物事を考える。
43 生活で最も重要なのは「経験」である。そして、アイデアの交換や他人との触れ合いこそ、本来の人間のありかただ。場所や対象物によって、経験の印象が強まったり、台無しになったりすることがある。
50 今この場が、私たちにとってすべてである。これらの言葉は、数多くの作品を生み出し、世界で最も多彩で、高い評価を得ているデザイナー、カリム・ラシッドからの引用である(詳細は www.karimrashid.com を参照)。
p.170
事実というのは、誰にでも瞬時にアクセスできるようになると、一つひとつの事実の価値は低くなってしまうものなのだ。そこで、それらの事実を「文脈」に取り入れ、「感情的インパクト」を相手に伝える能力が、ますます重要になってくるのだ。
そして、この「感情によって豊かになった文脈」こそ、ものを語る能力の本質なのである。
p.205
シンフォニーとは、バラバラの断片をつなぎ合わせる能力である。
「分析する」というよりも「統合する力」であり、「一見、無関係に思える分野に関連性を見出す力」、「特定の答えを出す」というよりも「広範なパターンを見つける力」、そして「誰も考えなかったような要素の組み合わせから新たなものを創造する力」なのだ。
p.225
「一般人と卓越したリーダーとを分かつものは、一つの認知力でしかなかった。それは、パターン認識力だ。全体像をとらえて考えることで、周囲を取り巻く多種多様の情報から意義のあるトレンドを選び出し、将来に向けての戦略的思考ができるのである」