ビジネスで一番、大切なこと [book]

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業 / ヤンミ・ムン (著), 北川 知子 (翻訳)

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業


競争が加熱した結果、ライバル製品同士が同じようなものになってしまい、些細な違いを消費者に謳うという、日本の家電が良く陥ってそうな罠を、見事に指摘した内容になっています。

では、その罠に陥らないためにどうすればよいか。
アップルなどを例に、リバース・ブランド、ブレークアウェー・ブランド、ホスタイル・ブランドといったブランド確立(=差異化)手法を紹介し、具体的に解説されています。

これらの手法を読者がどのように応用するか、については自分で考える必要がありますが、少なくともヒントとして、3つの視点(考え方)を得ることができます。


以下、読書メモ。

pp.54-55

「FIJIの帯水層は、工業地域から離れた原生多雨林の未踏の生態系にある。降雨は太平洋を何千キロも渡ってきた赤道風によって浄化されている。地球上の他の地域に酸性雨や汚染物質をもたらす風とも無縁だ。真に純粋な水の味を試したいなら、FIJIを飲んでみるといい」
いやはや、この手の謳い文句が度を越して詳しい場合は、注意が必要だ。ビジネスパーソンの努力は奇妙な形に結実している。この段階に入ってしまえば、差別化の主張までもが、信憑性を失う。どんな違いが存在するにせよ、取るに足らないものだ。海見は細部に宿るとよく言われるが、悪魔も細部に宿る。無意味な区別を巧みに差別化に見せかけているのが、ビジネスの現状だ。


pp.58-59

もしあなたが他社との果てしない小競り合いの渦中にいるなら、その瞬間にも過去があり、未来があるのを忘れるのはたやすい。何もしないよりは何かをした方がいいのかもしれない。けれど、多くを成すことが何かを成すよりもいいとは限らない。「もっと、もっと、もっと」に何の価値もない場合もある。目の前のことだけにとらわれているときには、このことを忘れがちだ。
だからこそ、時間移動者になってみよう。過去、現在、未来を同時に見れば、過剰なまでのメリットが最終的に欠点になり得ることがわかる。〜略〜
進歩によって物事は良い方向に向かうーーーただし、悪い状態になるまでは。これが進歩のパラドックスである。だから、まずは物語を巻き戻したり、早送りしたりすること。昨年を振り返り、来年を想像して、時間軸を行き来してみるといい。そして、未来の様々な可能性というレンズを通して市場の姿を思い描いてみよう。


p.67

市場が成熟しすぎると、二つの傾向が現れる。第一に、競争が高じて過剰な活動が繰り広げられると、消費者の目には違いがわからなくなる。前にも述べたように、群れの行動の特徴は目の錯覚にある。外から見ると、あたかも集団として目的を持って行動しているように見え始め、中にいる個々人の行動がわかりにくくなる。カテゴリーもまた、全体としてのアイデンティティを示しているように見えてきて、個々のブランドのアイデンティティはぼやけてしまう。


p.68

一度そうなってしまうと、そのカテゴリーとの関係が、カテゴリー内のあらゆるブランドとの関係を表すようになる。これが、角の成熟によって生じる第二の状況である。消費は、個々のブランドの小競り合いとは関係なく、カテゴリー自体に対して消費者がどう感じるかによって決まる。


p.80

私が最も注目するブランドは、私たちの期待など眼中にない。期待と無関係なものを提供しながら、なおかつ期待に答え、これまでにない新たな現実を提供する。不思議なことに、市場の他の商品に比べて必ずしも優れているとは限らないが、差別化に成功している。顧客と特別な関係を築き、群れから抜きん出ている。本書で冒頭から述べているように、差別化を実現するためには、競争ではなく、競争からの完全な脱却が必要なのだ。


pp.97-98

選択肢の海で溺れそうになっているからこそ、それらが取り除かれると、解放された気分になる。顧客サービスで窒息しそうなときこそ、放っておかれるのをありがたいと感じる。「もっともっt」が当たり前になっているときこそ、少ないことの価値が生まれる。


p.107

ブレークアウェー・ブランドは、私たちが放っておけば、恣意的にその製品を特定のカテゴリーに関連づけてしまうことを知っている。だからこそ、そうした認知のデフォルトから切り離すために、糸的に自社製品を作り直す。ロボットを提供するが、ペットとしての役割を果たさせる。おむつを提供するが、年長の子供の下着だと思わせる。期待どおりのものを提供しながら、まるで異なるものとして再定義し、私たちに概念的な枠組みを変えるよう迫るのだ。


p.128

消費者と対立しないブランドは、消費されやすい。何か要求してきたり、自己主張を押しつけたりしない。そうした消費は、人混みに紛れ込むようなものだ。


p.142

リバース・ブランドは、カテゴリー内の拡張傾向を無視する。ブレークアウェー・ブランドは、カテゴリーの境界を飛び越え、製品の定義に挑戦する。ホスタイル・ブランドは、顧客を魅了する従来の原理の尊守を拒絶する。


p.143

アップルを例に取ろう。他社製品では当たり前の機能や装備に知らん顔を決め込むことも珍しくない。マウスはボタン一つのまま。マックブック・エアにはポート類が、iPhoneには取り外し可能なバッテリーがない。それでもファンは満足している。斬新なデザインや豪華なインターフェイスと


p.152

簡単な仕かけを探し、注目を引く曲芸をやってのけるブランドがいる。食堂で側転をするような行動で、関心を得ようとする。しかし、結果的には、私たちはそういった無数のブランドを無視し、ダヴやハーレー、アップルを大切にしまい込む。なぜなら、後者は波紋を呼ぶような方法、私たちに語りかけるような方法で逸脱するからだ。


pp.172-173

少し考えてみよう。あなたにとって、珍しいものとは何だろう。
私自身は、あり余るものに囲まれている場合にはそこから解放されたいと思う。つまり、喧騒や興奮に囲まれているとき、私にとって珍しいものは……静けさだ。豊富な選択肢や大勢の店員に囲まれ、何でもすぐに手に入るとき、私にとって珍しいものは……じっくり考えられる時間だ。現実主義は私にファンタジーを求めさせ、過度のファンタジーは現実を求めさせる。
チャンスはあちこちにある。たとえば、あふれているものを一時的に停止して価値を生み出すことができる。ホスタイル・ブランド、リバース・ブランド、ハーレーやダヴ。彼らはみな、私が豊富に持っているものに目を留め、稀少性のある何かを差し出している。忘れてはいけない。抑制は新たな欲望になり、ささやきは新しい呼び声になる。確実に言えるのは、ブランドが何か手に入りにくいものを提供する余地は今後もある、ということだ。