ドラッカーへの旅 知の巨人の思想と人生をたどる [book]

ドラッカーへの旅 知の巨人の思想と人生をたどる / ジェフリー・A・クレイムズ (著), 有賀 裕子 (翻訳)

ドラッカーへの旅 知の巨人の思想と人生をたどる

導入では、ドラッカーへのインタビューについて書かれていますが、内容の大半はそのインタビューの内容ではないようです。
全般に、著者の目を通してドラッカーの思想や考え方がまとめられています。
著者の視点がワンクッション入っているので、ドラッカー自身の著書とは違った趣で詠むことが出来ます。

以下、読書メモ。

p.68

顧客と接する時間をマネジャー全員に持たせるべきだ。なぜなら、結果はすべて市場しだいなのだから。


pp.69-70

ドラッカーは早くから、自社の事業は何かを見極めるのが大切だが、これは一筋縄ではいかない課題だ、と主張していた。このテーマをめぐっては、さまざまな要因が複雑に絡み合っているが、そのひとつは、「事業の目的を決める力を持つのは顧客だけである」というドラッカーの基本原則に行き着く。ふたたび病院の事例に戻り、この原則を掘り下げたい。

ドラッカーはかつて、病院の運営にたずさわる人々と力を合わせて、その病院の使命を定める仕事に取り組んだときの様子について語っていた。これは単純な仕事だと思われるかもしれないが、そうではなかった。たいていの病院は、型どおりに、「医療に尽くすのがわたしたちの使命です」と謡っているが、ドラッカーはそれはただの美辞麗句にすぎないとして、見向きもしなかった。病院事業の本質を見誤っている、というのだ。「病院は医療を提供するのではなく、病気を退治するのが仕事でしょう」


p.102

ドラッカーの自選・六大著書

『企業とは何か』(一九四六年)
『現代の経営』(一九五四年)
『創造する経営者』(一九六四年)
『経営者の条件』(一九六六年)
『断絶の時代』(The Age of Discontinuity)(一九六九年)
『イノベーションと起業家精神』(Innovation and Entrepreneurship)(一九八五年)


pp.132-134

ドラッカーが唱えた協調関係を実地に移すには、どういった方法があるだろうか。以下を試してみてはどうだろう。

◎従業員に最新の情報を伝える
民主的な職場では、情報を容易に入手できる。働き手はみな、会社の「上のほう」で何が起きているかを知りたいと考えており、上司であるあなたは、部下たちから見れば社内のほかの人々や部門とのパイプ役である。会社や部門の動向をまったく知らず、抜け殻のようになったのでは、最悪である。

◎部下に目標を押しつけるのではなく、まずは自分たちで考えさせよう
目標がお仕着せではなく、自分も策定にかかわったものであるなら、部下たちもそれに愛着を抱き、達成に向けて努力しようと考える可能性は高いだろう。

◎部下たちと定期的に話し合いを持ち、彼らの組織全体とどう関わるかを伝える
働き手はみな、自分の担当部分が仕事全体のなかでどういった位置づけにあるのかを、知りたいと考えている。二週間に一度ほど、弁当または宅配ピザなどを食べながらチーム・ミーティングを行うと、部下たちの努力が会社の業績とどう結びつくかを伝えるための、よい機会になるだろう。

◎直属の部下たちと折に触れて言葉を交わし、率直なフィードバックを与える
部下たちに、仕事ぶりへの評価を知らせよう。コーヒーを飲みながら、まずは強みを褒めるとよい。目標に対してどれくらいの実績をあげているか、話し合いをすると、部下の望みに沿ったフィードバックを与えることができる。


p.140

「成長戦略の第一歩は、どの分野をいかに伸ばすかを考えることではない。『どの分野から撤退すべきか』こそ、最初に考えるべき点である。


p.147

一九八四年には、GEハウスウェアを売却したが、これはトースターやヘアドライヤーなどを製造していたため、アメリカの家庭からもっとも親しまれた部門だった。「アメリカ人の生活になじんだ事業を売るなどということが、どうしてできるのか」と尋ねられると、ウェルチは、「二〇〇〇年には、トースターとCTスキャナとでは、どちらが魅力あるビジネスになっているでしょう」と断固とした口調で切り返した。


p.147

いまわかっていることがらを前提にした場合、この事業にゼロから参入するだろうか。かりに答えが「ノー」なら、「では、いま何をすべきか」と自問しなくてはいけない。調査を重ねるのではなく、行動を起こす必要があるのだ。


p.157

最上位一〇%と最下位一〇%をくらべたところ、「これといって強みがない」とまわりから見られたマネジャーの評価は、組織内の全マネジャーの下位三分の一に沈むことがわかったという。

対照的に、ひとつでも強み(あるいは得意分野)があると、下位三四%から六八%へと評価は上がる。そして強みが三つあると、八四%へとはね上がるのだ。ジャック・ゼンガーはこう説明している。「ここからはっきり読み取れるのは、組織内で卓越したリーダーの地位を得るには、三つあるいは四つの分野できわめて優れている、と見られる必要がある。


p.160

強みを活かす七つのヒント
〜略〜
1 ここ二、三年の自分の主な功績をリストアップする。
2 自分が責任を負う仕事を四つから六つほど挙げてみる。
3 背伸びが必要そうな仕事をあえて引き受ける。
4 自分の美点を振り返り、そのあとでまわりの人々の美点を探す。
5 有能な同僚や野心溢れる部下を恐れない。
6 他人の才能をねたまず、一流の人々と付き合う。
7 他人のあら捜しにムダに時間を使うのはやめて、自分の仕事にまい進しよう。


p.169

「リーダーたる者は、『自分は何をしたいのか』ではなく『何をすべきか』を考える。そして、『決定的に重要なそれらの行いのうち、自分に適しているのはどれか』と胸に手をあててみる。不得意な分野で負け戦に挑んだりはしない。必要だが自分には向かない仕事があれば、自分ではなくほかの誰かに任せて、確実にこなしてもらうのだ」


p.176

ドラッカーは、「リーダはその人柄をとおして人々を率い、まわりに模範を示すのだ」という言葉を残しており、早い時期から、人々は学んだり、あとから身につけたりすることはできず、不誠実な態度や行いをしたら、その汚点はけっして消えないと考えていた。「マネジャーの価値は結局のところ、どのようなビジョンを持っているか、あるいは、道義的な責任を果たしているかによって決まる」


p.203

「結局のところ、マネジメントとは、実践なのです。知識ではなく行動こそが本質なのです。理屈ではなく、行動こそが、真価を決めるわけですね。マネジメントは、実績をあげることをとおしてしか、権威や影響力を得られないのです」


p.217

ドラッカーの教えによれば、事業が失敗する最大の原因は、マネジャーが「自社の事業は何か」を鋭く明確に自問しないことだという。しかも、創業時や苦境時にだけこれを自問すればよいわけでもない。「それどころか、事業が軌道に乗っているときこそ、この問いを抱き、徹底的に考え抜くことが最も必要なのだ。そのようなときに、現状に疑問を持たずにいると、坂道を転げ落ちるように業績が悪化するだろう」


p.256

危機に備えるのがリーダーの仕事だ


p.283

ドラッカーによれば、イノベーションが実を結ばない場合、その最大の原因は、うまくいかなかったときへの備えをしてしまうことだという。いわば両面作戦である。言葉の上では熱心なそぶりを見せながら、そのじつ、全力でイノベーションにまい進するのではなく、従来の事業にしがみついたままなのだ。

つぎの課題は、新規事業をいかに舵取りしていくかである。新規事業を成功へと導くには、手厚く保護しなくてはいけない。つまり、独立性の高い新組織に任せるのだ。「赤んぼうはリビングルームに放置するのではなく、育児室や保育園でいつくしむ必要がある。新しい概念やアイデアを、中身に関係なく従来の組織に放り込むのは、あまりに危ういやり方だ。なぜなら、将来に向けて事業を育むよりも、日々の問題を解決することの方が、必ず優先されてしまうからである。このため、既存事業の枠組みのなかで新規事業を育てようとすると、将来を切り開く仕事を絶えず後回しにすることになる。新規事業は独立組織に任せなくてはいけない。しかも、既存組織が新しい事業への関心を失うことがないよう、目配りも欠かせない。さもないと、新旧のあいだで火花が散るばかりか、進歩がとまってしまう」


p.290

グローブは『インテル戦略転換』において、戦略の転換点に備えたり、その影響をかわしたりするためのヒントをいくつか紹介している。ひとつには、頼りがいのある凶事の予言者(カッサンドラ)、つまり、「天が落ちてくる、世界の終末は近い」などと怯えてばかりいる偏執狂の言葉に耳を傾けるとよいというのだ。このような極端なものの見方をする人々は、たいていは最前線の仕事にたずさわっており、第三者的な視点を持ちやすい。グローブは彼らこそ、戦略の転換が決定的になる前に、潮目の変化を感じとるのに最適な立場にいる、と考えた。「彼らは一般的に、経営陣よりも変化のきざしに敏感である。なぜなら、社内に閉じこもらず、外を走り回っているため、世の中の風向きを肌身で感じるのだ」。